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【なんて素晴らしい人生!】編集委員・石野伸子 ゴリラの瞳見つめてあげて(産経新聞)

 神戸の王子動物園にゴリラを見に行った。昨年末、ゴリラ研究の第一人者、山極寿一さんに彼らのすばらしさを聞いて以来、早く面会に行きたかったのだが、寒くて足が向かなかった。

 しかし、そうこうしているうちにもゴリラの絶滅危機は迫る。先だってドーハで開かれたワシントン条約締約国会議では、国連環境計画が「コンゴ盆地のゴリラは10年後に絶滅」と衝撃的な発表をした。クロマグロも大変だがゴリラはもっと大変。むろん動物園への新規取引などとっくにご法度。いま日本にいるゴリラは24頭だが、高齢化が進み、この20年で半減した。ナイーブで飼育下での繁殖が難しい動物の代表格なのだ。

 春休み、桜がほころびはじめた王子動物園は親子連れでにぎわっていた。飼育史によれば、1963年に初代ゴリラがやってきて以来、いまいるヤマトとサクラは3代目。アフリカ生まれの日本育ちでいずれも33歳、人間でいえば70歳近い。真夏の暑さがこたえるようになり、ことしはミストシャワーで夏バテ予防をしようと1100万円の予算を計上したところだ。

 この日、2頭は元気に屋外運動場で動き回っていた。大きい。とくにオスのヤマトはひときわりっぱ。その大きなからだで1本の枝を抱え込んだり、ほうり投げたり、見ていてあきない。その後を小柄なサクラがついて歩く。常にヤマトからちょっと離れてすわり、ときおりきゅっと体をすくめる。なかなか愛らしい。

 2頭は幼なじみで仲がいい。しかし、カップルにはなれなかった。社会性の高いゴリラは小さいころからオスとメス1頭ずつで育つときょうだいのようになってしまうのだそうだ。ゴリラ舎のそばには赤ちゃん誕生を期待して漢方薬を与えたり、他の動物園の繁殖行動ビデオを見せたり涙ぐましい努力の様子がリポートされているがそれも3年前まで。飼育係によれば「あきらめたわけではない」そうだが、期待は薄い。

 ゴリラは長らく誤解されてきた動物だ。見かけから凶暴だとか乱暴者だとか言われ、その誤ったイメージがどう増幅され継続されてきたかは、山極さんの著書『暴力はどこからきたか』(NHKブックス)などに詳しい。訪ねた日も、大きなからだを見て「こわいねえ」と子供に語りかける人も少なくなかった。

 しかし、じっとよく見てほしい。あの黒くて大きいつぶらな瞳を見るだけでも、彼らが愛情深く平和な存在であることが実感できないだろうか。2頭は室内でひと休みの時間に入った。無心にサツマイモや枯れ草をほおばっている。

 いかなる運命にてか、遠い桜咲く日本で暮らすことになったヤマトとサクラ。いいよいいよ、しっかりお食べ。家族は増えなかったかもしれないけど、仲良く元気で長生きしてね、と心から祈りたくなった。

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